スクラッチ開発とは?メリット・デメリットと導入時の判断ポイントを解説

2025/05/27
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自社の業務プロセスやサービス内容に完全にフィットしたシステムを構築したい企業にとって、有力な選択肢となるのが「スクラッチ開発」です。スクラッチ開発とは、既存のソフトウェアやパッケージ製品に頼らず、ゼロから独自仕様でシステムを構築する手法のこと。業務に最適化された高い柔軟性や拡張性が魅力ですが、その一方で初期コストや開発期間、運用リスクなども慎重に見極める必要があります。

本記事では、「スクラッチ開発とは何か」という基本から、その具体的なメリット・デメリットまでを詳しく解説。さらに、スクラッチ開発を導入すべきかどうかを判断するための基準や、他の開発手法との比較ポイントまで、実際に導入を検討する企業に役立つ視点でわかりやすく紹介します。自社に最適なシステム導入を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。

スクラッチ開発とは

定義と特徴

スクラッチ開発とは、既存のソフトウェアや外部サービスを一切利用せず、システムやアプリケーションをゼロベースから独自に構築する開発手法です。いわば“白紙の状態”から始める完全オーダーメイド型の開発スタイルであり、自社の業務要件やビジネスロジックに合わせて設計・実装・運用までを一貫して行います。

この手法の最大の特徴は、自由度の高さとカスタマイズ性の広さにあります。業務フローの細部に至るまで最適化された仕様を反映できるため、既存システムでは対応が難しいユースケースや業界固有のニーズにも柔軟に対応可能です。結果として、ユーザー体験(UX)の向上や運用効率の改善に大きく寄与します。

パッケージ・クラウド型との違い

スクラッチ開発をより理解するためには、他の主要な開発手法との違いを知っておくことが重要です。一般的に、企業が選択するシステム構築の手法は以下の3つに分類されます。

  • パッケージ型:既製品のソフトウェアを購入して導入する形式。初期費用が抑えられ、導入スピードも早い反面、カスタマイズ性に制限があります。
  • クラウド(SaaS)型:インターネット経由で利用可能なサービス。インフラ管理の負担が少なく、スケーラビリティも高いですが、機能追加や細かな設定に制約があることも。
  • スクラッチ開発型:完全に自社のニーズに合わせた開発。要件定義から設計、開発、テスト、運用までフルカスタマイズ可能。最大限の柔軟性を持ちますが、開発期間や初期コストが高くなる傾向があります。

パッケージ型やクラウド型は、スピード重視やコスト優先のプロジェクトには適していますが、複雑な業務要件や独自性の高いシステムを必要とするケースでは対応しきれないこともあります。そうした場合、スクラッチ開発が大きな価値を発揮します。

どんな企業・ケースに向いているか

スクラッチ開発は、以下のような状況・企業に特に適しています。

  • 業務フローが複雑で、市販のソフトウェアでは対応が困難
    • 例:複数部門をまたぐ独自の承認プロセスや多段階の在庫管理
  • 法規制や業界標準への対応が必須
    • 例:医療・製薬・金融・物流業界など、業界特有の要件に柔軟に対応する必要がある企業
  • 今後の機能追加や業務拡張を見据えて拡張性を重視したい
    • 将来的なビジネスモデルの変化にも対応可能なシステム基盤を構築したい場合
  • UXやUIを独自設計し、顧客体験を差別化したい
    • 特にBtoCサービスや会員制Webサービスでは、フロントエンドの自由度が事業成果に直結することも多い
  • 業務効率化が利益に直結する業務領域で導入効果が高い
    • 例:受発注管理、在庫管理、生産管理などのコア業務

このように、スクラッチ開発は「自社にとって最適な業務システムを構築したい」「他社との差別化を図りたい」という強い意志を持つ企業にとって、最も適した選択肢となり得ます。

スクラッチ開発のメリット

自社に最適化されたシステムが構築できる

スクラッチ開発の最大の魅力は、自社の業務プロセスや運用に完全にフィットしたシステムを構築できる点にあります。市販のパッケージソフトやSaaSでは、既存機能に業務を合わせなければならず、現場での運用に無理が生じることもあります。しかし、スクラッチ開発であれば、要件定義の段階から自社仕様に基づいて設計できるため、システムが業務に“自然に溶け込む”ような形で実装できます。

たとえば、営業支援ツール(SFA)や顧客管理システム(CRM)を導入する場合、自社独自の営業フローに合わせて入力項目・管理画面・承認フローを設計可能です。これにより、業務効率化はもちろん、現場スタッフの使い勝手も向上し、社内への定着率や満足度の向上にもつながります。システムが現場にとって「使われるツール」となることが、導入成功の大きなカギとなります。

将来的な拡張性・柔軟性が高い

スクラッチ開発では、システム構成やアーキテクチャを自社の将来計画に合わせて設計できるため、将来的な機能追加や業務拡張にも柔軟に対応できます。たとえば、新たな事業部の設立、海外拠点の追加、新サービスの開始など、事業成長に応じたシステム改修がスムーズに行えるのが特徴です。

また、ベンダーやプロダクトの仕様変更に左右されにくい点もメリットの一つ。SaaSやパッケージ製品では、提供元の仕様変更に強制的に従わざるを得ないことがありますが、スクラッチ開発では自社のタイミングと方針に基づいて段階的にアップデートできるため、業務運用の安定性が確保されやすくなります。

差別化されたUI/UXが実現できる

テンプレートベースではないスクラッチ開発では、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)も自由に設計可能です。とくに顧客向けのWebサービスやアプリケーションにおいては、使いやすさやデザイン性が競争力に直結する場面も多く、自社のブランドイメージや顧客特性に合わせたUI設計は重要な差別化要素になります。

たとえば、予約管理システムを提供する企業であれば、ユーザーの属性や利用シーンに応じた画面構成や操作フローを実装することで、予約完了率(CVR)の向上や継続利用率の改善が期待できます。スクラッチ開発なら、細かなインタラクションや導線設計まで自由にコントロールできるため、顧客満足度を高めるUX改善を継続的に行うことも可能です。

スクラッチ開発のデメリット

初期コストと開発期間が大きい

スクラッチ開発はゼロベースからシステムを構築するため、設計・開発・テストのすべてに時間とコストがかかるのが大きなデメリットです。特に要件定義の精度が求められることに加え、UI設計やセキュリティ設計、システム連携など多岐にわたる要素を網羅的に進めなければならず、工数が膨らみやすくなります。

実際に、中規模程度の業務システムであっても、開発費用は数百万円〜数千万円規模となるケースが多く、開発期間も半年〜1年以上を見込む必要があります。パッケージやクラウド型のように「すぐに使える」即効性は期待できず、初期投資の大きさが意思決定の障壁となる場合もあるでしょう。

また、リリース後も改善や機能追加が前提となるため、予算計画やスケジュールの柔軟な設計が求められます

ベンダー依存・内製体制の整備が必要

外部のシステム開発会社にスクラッチ開発を依頼する場合、開発ノウハウや仕様がベンダーに偏るリスクがあります。仕様書の曖昧さやドキュメント不足によって、納品後に「中身がブラックボックス化してしまう」事態も起こり得ます。その結果、保守や機能追加のたびにベンダーに依存せざるを得ず、運用コストが慢性的に高止まりしてしまう可能性もあります。

また、自社内でシステムを継続的に運用・改善していくには、エンジニアや情報システム部門のスキルと体制整備が不可欠です。技術的なキャッチアップだけでなく、業務知識を持つ担当者と密に連携できるチーム作りが、長期的な視点での成功を左右します。特に、将来的に内製化を視野に入れる企業にとっては、早期からのナレッジ蓄積と体制強化が重要です。

要件定義・運用フェーズでのリスク

スクラッチ開発では、開発前の要件定義フェーズが非常に重要になります。要件の整理が不十分なまま開発を進めてしまうと、システム完成後に「実際の業務に合わない」「操作が複雑で使いにくい」といった問題が表面化し、追加開発や再設計が必要になるケースもあります。これにより、コストとスケジュールの大幅な見直しを迫られるリスクも否定できません。

さらに、リリース後の運用フェーズでも、法制度の変更やビジネス環境の変化に伴うアップデート対応、想定外のバグ修正、ユーザーからのフィードバック対応など、継続的な改善が求められます。パッケージ製品やSaaSと異なり、自社で責任を持って対応する体制が整っていなければ、運用が破綻してしまうおそれもあるため注意が必要です。

導入判断のための評価ポイント

目的・要件の整理と優先順位付け

スクラッチ開発を検討する際には、まず「なぜ既存のサービスではなく、スクラッチで開発する必要があるのか」という目的を明確にすることが重要です。単に自由度が高いからという理由だけで選択すると、必要以上のコストや工数をかけてしまう可能性があります。

業務の課題や改善したいポイントを具体的に洗い出し、それらを実現するために本当にスクラッチが必要なのかを精査しましょう。そのうえで、要件を「必須機能」と「将来的に必要な機能」に分け、機能ごとの優先順位を設定することが成功の鍵となります。これにより、全体を一度に開発するのではなく、段階的なフェーズ開発(スモールスタート)が可能になり、初期投資を抑えつつ、柔軟なスケーリングを見込めるようになります。

社内体制と予算の適合性

スクラッチ開発では、開発予算だけでなく社内の人材・体制の準備状況も判断基準として不可欠です。たとえば、プロジェクトマネージャーや情報システム担当者、各部署のキーパーソンとの連携体制が不十分であると、要件の取りまとめや意思決定が遅れ、プロジェクトの進行に支障をきたす可能性があります。

また、開発後の保守・運用フェーズにかかるコストやリソースも事前に計画しておく必要があります。システムは作って終わりではなく、継続的なアップデートや改善を前提とする運用体制が不可欠です。開発初期段階から、トータルコスト(TCO)を見越した資金計画を立てることが、長期的に見た費用対効果を高めるポイントとなります。

他手法との比較と選定基準

スクラッチ開発を本当に選ぶべきかどうかを判断するには、他の開発手法と比較する視点が欠かせません。特に、以下のような観点から各手法を比較し、自社の要件に最も適した選択肢を見極めることが大切です。

  • 導入スピード:すぐに運用を開始したい場合は、スクラッチ開発よりもパッケージ型やクラウド(SaaS)型が有利。
  • 柔軟性(業務との適合性):業務に合わせたきめ細かい対応が必要な場合は、スクラッチ開発やローコード開発が有力。
  • 拡張性(将来的な展開):成長企業や複雑な業務を抱える企業では、将来的な機能追加や業務変化への対応力が求められる。
  • 総コスト(TCO):初期費用だけでなく、保守・運用・拡張にかかる費用も含めたトータルコストで比較。

また、最近では、ローコードノーコード開発など、従来の選択肢とは異なる柔軟なアプローチも注目されています。ローコード開発は、スクラッチ開発に比べて開発スピードやコスト面で有利ですが、自由度には限界があります。ノーコードはさらに制約が強く、一般的に非常にシンプルな業務に向いています。これらの選択肢とスクラッチ開発を比較することで、費用対効果・スピード・柔軟性のバランスが明確になります。

導入に成功するためのステップ

ベンダー選定と要件定義の進め方

スクラッチ開発の成功には、信頼できる開発ベンダーの選定と、緻密な要件定義が不可欠です。ベンダー選定の際は、開発実績や業界理解、担当エンジニアの技術レベルだけでなく、ヒアリング力や対応スピードといったコミュニケーション能力も重要な評価軸となります。

また、開発の土台となる要件定義では、機能要件・非機能要件の明確化に加え、業務フローの図解やUIのワイヤーフレームの作成・共有を丁寧に行いましょう。関係者間での認識齟齬を防ぐことで、後の手戻りや仕様ブレを最小限に抑えることができます。

要件定義書や画面仕様書、業務プロセスの洗い出しは、開発の品質とスピードに直結する極めて重要なフェーズです。できるだけ多くのステークホルダーの意見を反映し、現場で本当に使われるシステムの設計に落とし込むことが、成功の第一歩といえるでしょう。

開発中・運用フェーズでの注意点

開発フェーズでは、定例ミーティングによる進捗状況の可視化と情報共有の仕組み作りが肝心です。特に仕様変更が発生した際は、影響範囲の洗い出しと関係者への説明責任を徹底することが、プロジェクトトラブルの予防につながります。

また、システムは「納品=完成」ではありません。運用フェーズに入ってからが本当のスタートです。ユーザーからのフィードバックを定期的に集め、バグ修正や機能追加を優先度に応じて実施するPDCAサイクルを回せるかどうかが、システムの定着率とROIを左右します。

特に社内向けの業務システムでは、利用率が低い=業務が回らないというリスクをはらむため、現場ユーザーとの対話や改善提案のプロセスを組み込んだ運用体制が不可欠です。

スクラッチ導入後の改善と保守

スクラッチ開発の導入後は、継続的な改善と堅牢な保守体制の構築が求められます。まず、開発時に作成された設計書・仕様書・コードのドキュメントを整理し、後から引き継ぐようにしておくことが重要です。

また、システムの安定稼働を維持するために、以下のような対応を計画的に行いましょう。

  • セキュリティパッチやライブラリの更新対応
  • OSやミドルウェアのバージョンアップ計画
  • 法改正や業務変更に伴う仕様変更
  • 性能チューニングやキャパシティプランニング

これらは「いつかやる」ではなく、定期的なメンテナンスサイクルの一環として計画的に実施することが、システムの長寿命化と安定運用につながります

まとめ

スクラッチ開発は、企業の独自性を活かしたシステム構築が可能な開発手法であり、競合との差別化や業務効率の最大化を目指す上で非常に有効な選択肢です。しかし、メリットだけでなく、初期コスト・開発期間・体制整備といったデメリットも正しく理解したうえで、明確な目的・実行可能な計画に基づいて導入することが成功の鍵となります。また、導入後も、柔軟な拡張・改善ができる体制を整えることで、業務環境や市場の変化に対応し続けられる「持続可能なシステム」として育てていくことが重要です。

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