
目次
インクルーシブデザインは、高齢者や障がい者、外国人など、これまで製品やサービスの設計から見落とされがちだった人々を、初期の企画段階から巻き込んでいくデザイン手法です。リードユーザーと呼ばれる当事者の視点を取り入れることで、従来にはなかった新たな価値の創出が期待できます。年齢や身体的特徴、文化的背景などに起因する利用上の課題に配慮することで、アクセシビリティやユーザー体験の向上が期待できるため、プロダクトデザインや空間設計はもちろん、Webデザインにおいてもその重要性が増しています。本記事では、インクルーシブデザインの基本的な概念から具体例、さまざまな応用事例までを紹介し、実践に役立つ知識を提供します。
インクルーシブデザインとは何か
インクルーシブデザインの定義と目的
インクルーシブデザインとは、高齢者や障がい者、外国人など、従来デザインから排除されがちだった人々を、企画初期から巻き込むデザイン手法です。1994年に英・ロジャー・コールマン教授が提唱し、リードユーザーの視点から社会課題を発見・解決するアプローチとして発展しました。単なる福祉的配慮にとどまらず、健常者では得られない洞察から新たな商品価値を生むことができます。現在ではプロダクト、Web、空間、ビジネスプロセスなど幅広い領域で活用され、企業研修への導入も進んでいます。社会全体の可能性を広げる手法として注目が高まっています。
https://inclusivedesign.jp/column/design-thinking/1455/
ユニバーサルデザインとの違い
インクルーシブデザインとユニバーサルデザインは、どちらも多様な人が使いやすい設計を目指す点では共通していますが、アプローチと対象が異なります。ユニバーサルデザインは「できるだけ多くの人」に向けて、健常者を中心とした視点で公平性と機能性を重視します。一方、インクルーシブデザインは、高齢者や障がい者、外国人といったリードユーザーを企画初期から巻き込み、新たな価値を共創する点が特徴です。万人向けとは限らない分、独自の気づきが反映され、結果として多くの人に役立つデザインが生まれることもあります。
https://spaceshipearth.jp/inclusive-design/
インクルーシブデザインの重要性
現代社会では多様性の尊重が求められ、企業にとってもインクルーシブデザインの採用はブランド向上や顧客満足に直結します。デジタルサービスでは、多様なユーザーを排除しない設計が重要です。
これにより、障害者や高齢者、外国人など幅広い層が利用しやすくなり、市場拡大や競合との差別化が可能になります。また、国際的なアクセシビリティ基準への対応は法令遵守の面でも必須で、リスク管理にもつながります。
さらに、社内の多様性推進や組織力強化にも貢献し、企業の持続的成長の重要な要素となっています。
https://blog.adobe.com/jp/publish/2021/06/21/cc-web-what-is-inclusive-design-principles-and-examples
インクルーシブデザインの具体例
インクルーシブデザインの商品事例
シチズンは、タイの視覚障害者学校の声をもとに、触って時間を確認できる腕時計を開発しました。音で確認する従来品の課題を解決し、周囲に気を遣うことなく時間が分かる設計です。弱視の方にも配慮し、コントラストの高い文字盤配色を採用。触覚による判読性と耐久性、デザイン性を両立させたこの製品は、まさにインクルーシブデザインの好例といえます。実用性と多様なユーザー視点を取り入れた革新的なアプローチです。
https://citizen.jp/touchtimewatch/index.html
Web・デジタルデザインの事例
横浜市の公式サイトは、誰もが使いやすいアクセシビリティ重視の設計がされています。
聴覚障がい者向けに読み上げ機能を搭載し、多言語対応で外国人ユーザーにも配慮。
多様なユーザーに情報が届くインクルーシブデザインの好例です。
https://www.city.yokohama.lg.jp/torikumi/
施設での事例紹介
TOTOのパブリックトイレは、誰もが安心して使えることを目指したインクルーシブデザインの事例です。
車いす利用者や視覚障がい者、オストメイト、乳幼児連れ、トランスジェンダーなど多様な人の声を反映。
男女共用スペースや介助対応の設備、点字・手すりの配置など、使いやすさを重視した設計です。
従来の公共トイレでは配慮されにくかったニーズを丁寧に拾い上げています。
TOTOは「ユニバーサルデザイン」と位置づけつつも、当事者の声を反映したインクルーシブな姿勢が特徴です。
https://jp.toto.com/ud/public/
Webデザインにおけるインクルーシブデザインの活用
アクセシビリティの基本原則
Webアクセシビリティは、「知覚可能性」「操作可能性」「理解可能性」「堅牢性」の4つの原則に基づいています。これらは全ユーザーがWebを利用できるようにするための基盤です。
- 知覚可能性:情報やUIを視覚や聴覚で認識できること。例として画像の代替テキストや動画の字幕があります。
- 操作可能性:キーボードや補助技術でも機能を操作できる設計が必要です。
- 理解可能性:情報や操作がわかりやすく、誤操作を防ぐ工夫が重要です。
- 堅牢性:さまざまなブラウザや支援技術で正しく利用できることを指します。
これらはW3CのWCAGで国際標準として定められており、準拠することでインクルーシブデザインを効果的に実現できます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/Web_Content_Accessibility_Guidelines
多様なユーザーを考慮したUI設計
インクルーシブデザインでは、多様なユーザーのニーズを踏まえたUI設計が重要です。年齢や身体能力、認知スタイル、利用デバイスの違いを考慮し、以下のポイントを押さえます。
- ナビゲーションの明確化:視覚障害者や初訪問者にも分かりやすいメニュー構造や直感的なリンクテキスト(例:「お問い合わせ」)を用い、色や下線で視認性を高めます。
- 誤操作防止:フォームでリアルタイムにエラー表示をし、間違い箇所を明示してユーザーの負担を減らします。
- レスポンシブ対応:スマホやPCなど各デバイスで快適に操作できるよう、タッチ操作に適したボタンサイズや配置を設計します。
- 言語・文化配慮:多言語対応や文化圏に応じた表現で、幅広いユーザーに対応します。
これらにより、単なるアクセシビリティ以上の使いやすさを実現し、ユーザー調査やペルソナ設計を活用することが成功の鍵です。
実践的なチェックリスト
インクルーシブデザインを効果的に導入するには、WCAG準拠のチェックリストで定期的に評価・改善することが重要です。主なチェック項目は以下の通りです。
- 代替テキストの設定
画像やアイコンに代替テキストを付け、スクリーンリーダーで内容が伝わるようにします。 - 動画の字幕や音声解説
聴覚障害者などに配慮し、動画には字幕や必要に応じて音声解説を追加します。 - コントラスト比の確保
色覚障害者も見やすいように、十分な色のコントラストを保ちます。 - キーボード操作の対応
全ての操作がキーボードのみで可能で、フォーカスが分かりやすい設計にします。 - 分かりやすいフォーム設計
ラベルやヒント、エラー時のメッセージを明確にして、誰でも正しく入力できるようにします。
これらを専門ツールやユーザーテストで評価し、担当者による定期的なレビューと改善を行うことが推奨されます。
インクルーシブデザインを導入するメリットと課題
企業・サービス側のメリット
インクルーシブデザインを取り入れることにより、企業やサービス側には多くのメリットが生まれます。第一に、より幅広いユーザー層へリーチできるため、市場拡大が期待できます。障害者だけでなく、高齢者や多言語話者など、今まで取りこぼしていた顧客層を新たに取り込むことが可能です。
また、法令遵守の面でも大きな利点があります。多くの国や地域でアクセシビリティ基準の遵守が義務化されつつあり、違反した場合には法的リスクや企業イメージの低下を招きます。インクルーシブデザインを積極的に導入することで、こうしたリスクを未然に防ぐことができます。
さらに、ブランド価値の向上も見逃せません。社会的責任(CSR)の観点から、多様性と包摂性を尊重する姿勢は顧客からの信頼獲得につながり、競合との差別化にも寄与します。
加えて、従業員の意識向上やモチベーションアップにもつながります。多様なユーザーの視点を取り入れることで、チームの共感力や創造性が高まり、組織全体の質的向上を促進します
実装にあたっての課題と対策
一方で、インクルーシブデザインの導入には一定の課題も存在します。まず、設計・開発コストの増加が挙げられます。特に既存サイトの改修や多言語対応、アクセシビリティ機能の実装は手間と費用がかかります。
また、専門知識の不足も大きな壁となります。アクセシビリティや多様なユーザーのニーズを正確に理解し反映するには、高度な知識と経験が必要であり、社内だけで対応しきれないケースも多いです。
さらに、既存システムやデザインとの整合性確保も難易度が高い部分です。レガシーなCMSやデータベースの制約により、理想的な設計をそのまま実装できないこともあります。
これらの課題を克服するためには、段階的な導入計画を立て、優先度の高い部分から着手することが効果的です。専門家や外部パートナーと連携し、社内での教育やナレッジ共有も並行して進めましょう。ユーザーテストを繰り返し実施し、実際の利用者の声を反映させることも重要です。
今後の展望とトレンド
今後のインクルーシブデザインの分野では、AI(人工知能)や機械学習を活用したパーソナライズドアクセシビリティの発展が期待されています。たとえば、ユーザーの視覚や聴覚の特性に応じて自動的に表示内容や操作方法を調整する技術が進化しています。
また、より細分化されたユーザーの多様性に対応するための新たなガイドラインや規格の整備も進む見込みです。世界各国でアクセシビリティ基準が厳格化する中、国際標準の調和も重要なテーマとなっています。
加えて、メタバースやVR(仮想現実)など新しいデジタル環境でのインクルーシブデザインも研究開発が進んでいます。これらの次世代技術においても、多様なユーザーが平等にアクセスし楽しめる設計が求められています。
企業はこうした最新動向を注視し、柔軟かつ迅速に対応していくことが、将来的な競争力の鍵となるでしょう。
インクルーシブデザインの導入に向けて
重要ポイントの振り返り
インクルーシブデザインは、単なるアクセシビリティ対応に留まらず、年齢、身体的特性、文化的背景など、多様なユーザー一人ひとりに最適なUXを提供するための設計思想です。Webデザインの現場では、以下の3点が成功のカギとなります。
- UI設計の工夫:直感的でわかりやすい操作性の追求
- アクセシビリティ基準の遵守:WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)への準拠
- チェックリストの活用:継続的な品質管理と改善の指針
企業にとってインクルーシブデザインを採用する意義は大きく、市場の拡大、ブランド信頼性の向上、法令遵守といった多角的なメリットが期待できます。ただし、コスト負担や専門知識不足といった課題もあり、段階的な導入と体制整備が欠かせません。
次のステップ
インクルーシブデザインを実践に移すには、以下のような段階的アプローチが有効です。
- 現状評価の実施
自社Webサイトやサービスのアクセシビリティ評価を行い、どの程度対応できているかを可視化します。Google Lighthouseやaxe DevToolsなどのツールの活用、あるいは専門家によるコンサルティングが効果的です。 - 改善計画の策定と優先順位付け
改善ポイントを洗い出した上で、UI設計の見直しや代替テキストの整備、コントラスト比の調整など、取り組みやすい項目から着手します。 - PDCAサイクルの構築
ユーザーテストを定期的に実施し、実際の利用者の声を設計に反映させましょう。これにより、理論ではなく実用に根ざしたインクルーシブな環境づくりが実現します。
まとめ
インクルーシブデザインは一度実装して終わりではなく、継続的な改善とユーザー視点の反映が鍵となるアプローチです。企業活動の一環としてインクルーシブなWeb設計を取り入れることで、より多くのユーザーに支持されるブランドづくりにもつながります。
当社は、インクルーシブデザインの導入に関する支援を専門的に行っております。業界特性や企業規模、既存Webサイトの状況を踏まえた柔軟な提案を通じて、段階的かつ実用的な導入プロセスをお手伝いいたします。まずはお気軽にご相談ください。
「インクルーシブデザインとは?基本からWebデザインでの実践例まで徹底解説」
の詳細が気になる方は、
お気軽にお問い合わせください

Y's Blog 編集部