2021.12.22

顧客主義 ~新カルチャーを求めて~

米田 龍平

前回までのあらすじ

株式会社Y’sは設立11期に入り、私自身は新たに「チーフクリエイティブオフィサー(略:CCO)」という肩書きとなりました。
現在、CCOとしての仕事のひとつとして、Y’s企業文化(以下:カルチャー)を作り直すプロジェクトを進めており、当ブログではその内容を段階的にご紹介してきました。

第一弾「フィードバック」の大切さ
第二弾「スポーツチーム」と考える
第三弾「フラットな組織」を取り入れる

と進めてきましたが…
今回、第四弾のテーマは「顧客主義」
僕と同じように組織の成長に苦戦されている方、ぜひご覧ください。

(「カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方」参照)

偉人たちのお知恵をお借りして

下記の参考資料を元に、僕の考えを中心に書いています。

ディズニー7つの法則
顧客サービスといって、まず思い出したのがこの本でした。ディズニーランドの顧客サービスの実現例が物語調で書かれています。顧客を“ゲスト”と呼ぶ姿勢や、7つの法則に込められた徹底した顧客への思いは大変参考になりました。

1分間顧客サービス―熱狂的ファンをつくる3つの秘訣
「顧客をつかんだら離さない」
顧客サービス=熱狂的なファンをつくるということ!自分のビジョンを持ち、顧客のビジョンを考え、一貫性と融通性で毎日コツコツ努力することの大切さを学びました。

真実の瞬間―SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか
顧客と接する平均時間は15秒。その真実の瞬間で全ては決まる。様々な試練を乗り越え、顧客サービスに成功した要因がリーダー視点で具体的に解説されています。

“顧客主義”は古い???

“顧客主義”といきなり聞くとなんだか堅いような重いような、、
かつて「お客様は神様です!」なんて言葉もあったように、相手の希望をすべて叶えることを第一とするような、なんとなく下手に出た態度が思い浮かびませんか?

そんなちょっとネガティブなイメージを漠然と持っていた僕は、
「お客様のために全てを捧げるのはちょっと…」
「自分が良いと思えるものを制作することが一番大事!」
とあまり真っ直ぐに顧客主義について考えたことがありませんでした。

ところが! 今回深く掘り下げるうちに、顧客主義はとても重要だと感じるようになったのです。

日本語では”顧客”という一言に集約されていますが、それはつまり「Customer」であり「Client」でもある。
たとえば、webサイト制作を依頼された場合、費用を支払うクライアントだけ満足させればよいのでしょうか。そのwebサイトを使用するカスタマーも顧客ではないでしょうか。

…自分の顧客ってどういう人たちなんだろう?
“顧客主義”を新たなカルチャーの一条として定義していこうと思います。

「顧客」の概念が変わった!

仕事をするということは“顧客”が必ず存在します。それはどんな仕事においても同じです。
ぜひ、本文を読み進める前に頭の中で下記の質問に回答してみてください。(ご自身のお仕事内容で!)

・あなたの“顧客”ってだれ?
・あなたの“顧客”は何を期待しているの?
・あなたの“顧客”の期待に応えるってどういうこと?

僕は今回の勉強により“顧客”に対する考え方が180度変わりました。今はどんなことを考えているか、先に結論を書きます。

▶︎ 顧客への期待に応える前に“自分のビジョン”を持っていること!
▶︎ 顧客を第一に考える前に“だれを顧客にしたいのか”決めること!
▶︎ メンバーひとりひとりが接している“その瞬間”が最も重要であること!
▶︎ 顧客の期待に応える前に“メンバーの意欲を高める”こと!

それではこのような結論に至るまでの僕の考え方を、順を追ってご紹介したいと思います。

顧客とは誰か?

まずは自分の仕事における“顧客”をより具体的にします。
例)一緒にプロジェクトを進めているクライアントの担当者
例)製作したグッズを通販で購入してくれたユーザー
例)自分のカフェに足を運んでくれるお客様
などなど。

僕らの仕事における顧客とは、対カスタマー】もしくは【対クライアント】の2つのパターンに分けられます。

自分の仕事がより顧客と近いのか遠いのかによって求められる能力が変わります。

[接客が多い]顧客と近い
その時に必ず成果を出さなくてはいけない
眼前にいる相手の反応に合わせて、期待を理解し瞬時に対応を変化させることが求められる

[接客が少ない]顧客と遠い
期限までに必ず成果を出さなくてはいけない
相手がここにいないため、顧客の期待を十分にシミュレーションすることが求められる

ふたつに分けて書きましたが、この両方を求められる仕事も多いと思います。かくいう僕もどちらもやっています。

読者の皆さんの多くは恐らく「クリエイター」もしくは「クリエイターに仕事依頼するクライアント」の方々かなと思うので、ここからはクリエイター目線で話を進めさせてもらいます。

自分のビジョンを持つこと

僕はデザイナーですので、デザインの仕事を例に話してみます。

例えば、アニメのポスターデザインの場合
僕にとっての顧客は、まずはデザイン費用を支払うクライアントです。そして、そのポスターを見てアニメを観たというカスタマーももちろん顧客になります。

ですので、デザイン案を提出する際は、クライアントの期待や要望はもちろん、カスタマーの期待も考えてデザインしています。
カスタマーの期待を考える上でいつも意識するのは「自分が“カスタマー”になりきる(ユーザー目線に立つ)」ということです。

実際にカスタマーひとりひとりに期待している内容を聞いて回るわけにはいきません。できることはカスタマー代表になったつもりで“自分のビジョン”をつくり上げることです。

“ビジョン”というのは、もしも僕がカスタマーだったらどうするか?と限りなく客観的に自分自身の仕事を俯瞰することを指します。しかし、あくまで予測です。仕事が進むにつれビジョンが間違っていれば柔軟に対応していくことが重要です。

もしこのビジョンが無いとどうなるか。
例1)デザイン:クライアントの要望に沿ったものを制作するだけ
例2)通販サイト:実際にカスタマーが望んでいない商品ばかりがサイトに並ぶ
例3)カフェ:注文を受けたものだけを出し、ロボットのような画一的な接客しかしない

極端な例を出しましたが、ビジョンがなければ、そうなってもおかしくありません。会社経営者と従業員、店長とアルバイト、それらの間に温度差があるという話はよく聞きます。これらはビジョンが共有されていないことが原因で起こっています。

デザインに話を戻します。
顧客(=クライアント)が漠然と持っているデザイナーに対する期待を明らかにして、さらにその向こうにいる顧客(=カスタマー)に対してデザインとして変換するのが僕らの仕事になるわけです。

結論、まず“自分のビジョン”を明確にすることがスタートです。そのビジョンの具体例を次の章にまとめます。

顧客は何を望んでいるのか?

先ほど書いた通り、言われたものを制作するだけのデザイナーはつまらない。クライアントを喜ばせない限り仕事になりません。まず、クライアントの要望や期待に沿うアプローチができてこそ、カスタマーの期待まで到達できると僕は思うのです。

そこで今度は、某会社の「コーポレートサイト」制作の依頼があったと仮定して話をします。僕がもしディレクターだった場合の“自分の接客ビジョン”をまとめてみます。

【接客ビジョン①】細かいところまで見られている!

→ まだ契約が成立するかわからない、お互いさぐりさぐりの状態。クライアントにとってこちらの情報が少ない段階ですので、発言する言葉ひとつひとつ声のトーン相槌受話器の置き方など、すべてが自分たちの”情報”として相手へ伝わると考えて丁寧な応対を心がけます。

【接客ビジョン②】自分たちの仕事の範囲を決めつけない!

→クライアントからの依頼はコーポレートサイトの制作のみ。しかし本当にそれがクライアントにとって問題解決になるのか?もしかしたら本来の期待にまったく別の方法で応えられるかもしれません。顧客と面と向かって接する機会はそういう想像力を働かせるチャンス!

【接客ビジョン③】誰にでもわかる言葉、浅くても広い知識!

→難しい言葉を使わないこと。誰もがわかる内容であってこそ、より多くの人に共感を持ってもらえます。また、関連する事柄については専門外でも浅く広く知っておくことで、相手の時間を無駄にせずに済みます(電話対応のたらい回しを思い出してみてください)。

【接客ビジョン④】ここで終わりと思ったところからもう一歩!

→クライアントの期待している案はもちろん提出する。さらにクライアントが思いもよらなかった視点やアイデアがあればそれも惜しみなく出す。完成と思ったところからもう一歩先を目指します。僕は提案書はいつもラブレターのつもりで書いています(ポッ…♡)

【接客ビジョン⑤】クライアントの言うことを鵜呑みにしない

修正依頼には必ず理由があります。その理由をよく理解せず機械的に修正してしまうと、クライアント自身がどんな最終形を目指していたのか見失い、ときには迷走するまま出し戻しを繰り返して納期に間に合わない…なんてこともあります。こんな場合はまず焦らず落ち着いて理由を聞けるよう調整し、本当にその修正が必要かどうか担当者とじっくり話す時間を設けるようにしています。

【接客ビジョン⑥】フィードバックをもらえる関係づくり!

→フィードバックをもらうことはとても難しいですが、まずこういった会話ができる関係性を作ることが大切。多くの人は自分が嫌われるような忠告は口に出したがりません。ですのでもし自分たちに改善点が多くあったとしても、それに気付けぬままでは静かに仕事がなくなっていくだけ。時として耳が痛いかもしれませんが、成長するためのアドバイスは積極的に聞きたいものです。

…以上①〜⑥が僕の考える、自分の接客とはこうありたいというビジョンの例です。
クライアントが期待していることはたくさんあります。そして、クライアント自身が気づいていない期待も実はたくさんあると思います。そういう期待にひとつでも多く応えられるよう、ひとつひとつのフローで「自分の接客ビジョン」を更新し続けることが重要だと思います。

顧客満足度=従業員満足度

次は接客を行う現場ではなく、良い接客を生み出す[仕組み]に焦点をあてたいと思います。

どのような仕事においても顧客が最も重要視していることは、いつでも期待していることに必ず応えてくれる」ということ。
それはサービスや制作物にムラがないということ、つまりどのメンバーも同じ[接客]ができ、同じレベルの[制作物]が提供できるということです。これはクリエイター(と、その上長)にとっては耳の痛い話です。

そこでこれらをクリアするために組織としてできることを3つにまとめました。
[1]リーダーがビジョンを作り、全員が同じビジョンを持っていること
[2]メンバーひとりひとりの応接を最も大切にできる仕組みづくり
[3]顧客満足度を評価する基準や制度を設けること
(※ ここでいうリーダーとは会社経営者や管理職などを指します)

[1]全員が同じビジョンを持っていること

メンバー全員が同じ接客をすることは、ある程度の段階までは訓練可能かもしれません。しかし体系的な基本形は不測の事態に対応できません。そして接客ではいつも不測の事態が起こるのです。

例えば
Q1:熱心に対応しすぎて、できないこともイエスと言ってしまった
Q2:期待に応えるため、期間も予算も度外視してしまった
など取り返しのつかないようなことが起こった場合どうするのか?

そうならないためには「全員が同じビジョン」を持っていることが重要です。
A1:メンバー全員が自社のサービス(できること)を熟知し説明できる
A2:期間や予算がはみ出たとしても、サービスの向上に繋がる場合は現場に判断を委ねる
などのビジョンがはじめからあれば、不測の事態が起きたとしても臨機応変に対処できます。こういったビジョンを日々の仕事でリーダーとメンバーが共有することで、徐々に浸透させていくことができます。

それから、ビジョンを持つことには“顧客を選ぶ”という利点があります。

・引き受けることでかえって顧客が損をしてしまう場合
(例:社内の規模に合わず納品期間が伸びる)

・自分たちのビジョンと合っていない仕事のやり方を望んでいる場合
(例:毎日夜中まで作業をする)

上記のような場合には、断る勇気が必要です。
それにより、別の仕事にコストをあてることができるため機会損失を防ぐことができます。

例えば、スターバックスには「喫煙所」がありません。そして飲み物を丁寧に時間をかけて客に見せるように作ります。
スタバは「第三の場所(←詳しくはこちら)を提供する」というビジョンを持っています。そのためにタバコを吸う忙しいサラリーマンは“顧客”として考えていないということですね。

[2]顧客と接する現場を一番に考える仕組み

真実の瞬間」ではスカンジナビア航空が顧客サービスで成功した実例が書かれています。1986年当時、顧客対応回数は年間5,000万回、一回の接客平均時間は“15秒”。この“15秒という真実の瞬間”にすべてが決まる。全員のビジョンをそこに集中すべきであるという話。

たくさんの社員がいる中でビジョンを共有することは容易ではありません。組織を挙げて対応する必要があります。

その最もわかりやすい仕組みが「逆三角形の意識」だと思います。

逆三角形では、現場で接客しているメンバーがトップであるという意識、それをサポートする管理職という形です。これにより、いちいち上司の確認を取る必要がなく、現場メンバーの判断で瞬時に決定が下せます。

この仕組みがうまく機能するためのポイントは2つ

誤)リーダーや管理職が常に正しい判断を下すことで現場のメンバーを動かせると考えている
正)全メンバーが同じビジョンを持ち、自らの判断で仕事を進めることができる環境づくりをサポートする

誤)部下を信用せずにできるだけ少ない情報で現場を動かせると考える
正)現場で正しい判断が可能になるための情報を惜しみなく共有する

ネットフリックスでは「上司の顔を見て仕事をするな!」という標語があるそうです。結果を出す会社はどんどんこういう意識に変わっていると思います。

[3]評価する基準や制度を設けること

そして最後、これらの接客に対する貢献は必ず評価されなくてはいけません。

ディズニー7つの法則」の中で「サービス熱狂カード」という仕組みが登場します。
簡単に言うと、マネージャーは、感動的なサービスをしたキャスト(従業員)を見つけたら、お礼の言葉と一緒にそのカードを渡す。月末にそのカードが抽選券となってステキな景品が当たるというものです。ディズニーという接客の最高峰でもインセンティブが明確にあります。

間違えてはけないのが、インセンティブを設けること自体が目的なのではなく、それが自然にできるようなカルチャーを作ることが重要です。

Y’sの内勤メンバーでは、他メンバーの成果につながる良い行動を見つけた場合、すぐにチャットツールを使用し共有し合うという仕組みがあります。
これはメンバーたちが考案し、一年ほど前からずっと継続し今なお続いています。僕も参加していますし、インセンティブはありません。でも書かれたら嬉しいものです。
僕たちリーダーはこれらを接客にも適応できるようにサポートしてあげなくてはいけません。

最後に

僕らクリエイターという人種はついつい自分が作りたいものを作るという観点から制作をしてしまいます。そして、その制作物を正当化するための接客になっていることがしばしば。僕もよくこの状態に陥ってしまいます。

しかし、この考え方は半分正しく半分間違っていると思います。その理由は、もし自分が“一番の顧客”の視点を持っていさえすれば、そのまま自信を持って作ればいいだけだからです。だからまず作る前に徹底的に“良い顧客になる”こと。

そしてまた「顧客サービスと利益はどっちを優先すればいいのかという状況に立たされた経験はないですか?

僕なりの答えは、クライアントを自分のファンにすることだと考えています。自分のビジョンをしっかり持った上で、誠心誠意顧客の期待に応える。その結果、次の仕事もあなたにお願いしたいと言ってもらえれば利益は後から付いてくる。その順番でいけば、上記のような二者択一を迫られる状況は減ってくるのではないかと思います。

結論、“顧客主義”について考えることは、自分の仕事を高みへ導くパラダイムシフトになり得ることだと思っています。

次回へ続く。

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