2021.5.17

スポーツチーム ~新カルチャーを求めて~

米田 龍平

前回までのあらすじ

昨年度、僕は新たに「社長」という肩書きから「チーフクリエイティブオフィサー(略:CCO)」という肩書きとなり、さまざまな取り組みに挑戦しています。
今回新たに企業文化(以下:カルチャー)を作り直す決心をしました。
ここでは「カルチャーシリーズ」と題して、Y’sの新しい企業文化とする内容を少しずつご紹介します。前回にあたる第一弾は「フィードバック」をご紹介しました。
僕と同じように組織の成長に苦戦されている方にはぜひご覧いただきたい内容です。

(「カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方」参照)

偉人たちのお知恵をお借りして

Y’sのカルチャー制作は、下記の3つの参考資料を元に、僕の想いを加えて作っています。

[カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方]
マッキンゼーの7Sから着想を得て、カルチャーを説明してあります。会社の成長イメージを決める上でとても参考になり、特に経営スタンスを定める重要性がわかりました。Y’sは本書で言うところの“権威分散型”であり、変化を求める「全員リーダー経営」を目指していこうと思っています。

[NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX]
ネットフリックスが世界最強のコンテンツ制作会社になれた要因はまさにカルチャーにあり、という内容です。イノベーションを生み出す「カルチャーデッキ」という最強構造が生まれた経緯が書かれており、大変感銘を受けました。ハードルは高いですが、言われてみれば当たり前のことが多いなと感じました。(その当たり前のことが一番難しいわけですが…)

[グレートゲーム・オブ・ビジネス―社員の能力をフルに引き出す最強のマネジメント]
全員が財務諸表まで理解できるチームであれば最大のパフォーマンスが出せる、という内容です。仕事をゲームに例え、どうすればよいチームが作れるのかを分かりやすく解説してくれています。能力密度を高めるネットフリックスとは違い、「全員を生かすために何をすべきか」と考えている点も興味深かったです。

脱・家族意識!

今のY’sという会社は成長ステージでいうと「草創期」を過ぎ「拡大期」を抜け、「多様期」を迎えようとしています。一般的にこの「多様期」では、企業としての差別化が必要となり、組織としてはアイデンティティーの醸成、つまり「らしさ」が必要になります。その「らしさ」とはどうあるべきかを突き詰めると、それがまさに「カルチャー」になると考えます。
そこで今回は、Y’sのカルチャーを作る上で僕が最重要と考えるテーマ、「脱・家族意識!組織をスポーツチームと考える」についてお話ししたいと思います。
が、、スポーツチームの話に入る前に、まずはこのような状況を思い浮かべてみてください。

社員から
「最近部下のミスが多くて自分の手には負えない」
「同僚のフォローに時間を取られて自分の仕事が捗らない」
などと小言がこぼれて来たとします。

このようなクレームの当人の態度として考えられるのは…

  • モチベーションが上がらないので仕事に身が入らない
  • 仕事はできるが勤務態度が悪い

上記の場合はひと目で原因がわかりやすいため、比較的問題解決はしやすいと思います。
しかし以下のような場合も考えられます。

  • モチベーションは高いが仕事におけるスキルやセンスがない
  • 勤務態度はとてもよく親切だけど、仕事におけるスキルやセンスがやはりない

ここであえて「センス」という言葉を用いたのは、専門的なスキルがあるだけでは、自分の役割を円滑に進める資質として充分であるとは限らない、という重要な点を言い表すためです。
しかし、このようにスキルや資質が足りないことをはっきりさせるのは、とても難しいことです。まだ発展途上なだけかもしれないし、教育する側の能力不足という場合も考えられるからです。そしてそうこうするうちに、「大切なメンバーだから…」「今はリソースがないから…」などとどうにか言い訳をつけて、結局、足を引っ張るメンバーのリカバリーに優秀なメンバーの時間を使わせることになってしまうのです。

なぜこんなことが起きてしまうのでしょうか。

思い返すとY’sは、草創期や拡大期において、夢やビジョンを共感できる・やる気や根性があるメンバーを集め、やる気と根性でなんとか仕事を進めてきたように思います。そしてそのメンバーを「みんな家族です」という愛情表現で繋ぎ止めてきたのです。
そしていま多様期を迎え、ついにやる気と根性では立ち行かない状況が見えはじめ、家族の名の下に手を取り合って脱落者を出さない、という構造に限界を感じるようになりました。

そんな僕にグサリと突き刺さったのが、前談の参考文献にあったネットフリックスの標語、

「私たちは、チームであって家族ではない」

という考え方でした。

これまで僕らは「仕事ができるできない」「向上心があるない」「ミッションに共感するしない」に関わらず、メンバーは家族と同じだと伝え、どんなことがあっても守るというスタンスを取ってきました。
しかしこれからは違います。代わりに僕らは、全員プロフェッショナルである「スポーツチーム」だと考えることにします。しかも一流のプロスポーツチームです。
それはどういうことかまとめます。

一流プロスポーツチーム

<一流プロスポーツチームの考え方>

  • 自分の成果だけを考えない、チームの勝利が全ての結果であり評価
  • 優秀な選手は個人の能力が高いだけでなく、仲間に信頼され、ファンからも愛される
  • 自分の能力が作戦上どのポジションで役に立つのか、あるいは年齢と共にどのポジションで役に立つべきか自ら考えることができる
  • 監督やコーチの役割は、勝てる戦力を揃えた最高のチーム作りと毎試合ごと勝てる作戦を考えることである

この一流のスポーツチームの考え方こそが、これからのY’sのカルチャーの源になります。
それを会社という単位で置き換えると

つまり、

<会社で置き換えた考え方>

  • 個人の成果だけを考えない、他社との差別化を作り、売上&利益という結果を出すことがすべて
  • 個人の高いスキルは当たり前、組織の中でも信頼され、マネジメントや教育にも注力し、かつ顧客からも信頼されている
  • 全員がすべての戦略から戦術、オペレーションまでを理解しており、成果を出すための役割を自分で考え作り出すことができる
  • 役員は監督、マネージャーはコーチ、それぞれの最大の仕事は成果を上げるための組織作りと採用である

となります。よくよく考えてみるととても当たり前な内容なのでは?と思われるかもしれません。
僕もそうだと思います。しかし、カルチャーとして視点を変えて考えなければ、ここに気づけないくらいマヒしていたということです。改めて、これらの重要性を感じたため、これらの内容をカルチャーに盛り込みたいと思いました。

ここから読み解ける、カルチャーを5つの重要な項目としてまとめます。

ここからわかる5つのこと

❶「結果につなげる、成果主義とそのための行動」
全員がプロフェッショナルという基準を持っています。結果がすべての成果主義。仕事において高い向上心やスキルを持っているメンバーが中心であり、そこに到達できていなければ何をすればよいかを必死で考える環境であるということです。つまり、自分ができないことを恥ずかしく思って誤魔化したり、最初から諦めて誰かにお願いしたりしません。できるようになるために他のメンバーから自ずとフィードバックをもらい、必死で振り返りと次に生かす行動が当たり前になることです。

❷「チーム力を向上させる寛大で率直な姿勢」
できるメンバーは個人の成果だけでなく、会社の成果が一番重要であることを理解しているので、自分のスキルや情報を惜しみなくメンバーに提供あるいはメンバーを教育することができます。また、役員やマネージャーは失敗を次の成果に繋げる寛大な姿勢を持てば、メンバーはのびのび働くことができます。それらができる大きな要因が正しいフィードバックです。重大なことも些細なことも成功も失敗も恥も外聞もなく、お互いがしっかりと話し合える環境(ネットワーク)を作ることがその第一歩になります。(※ 正しいフィードバックは前記事をご覧ください)

❸「すべてのメンバーが経営視点」
この項目が最も重要かもしれません。なぜならここが抜けてしまうと他の4つが機能しないからです。その内容は全員がプロであること、つまり全員がMVV、全社戦略、事業戦略、チームの役割と自分の役割を理解していることです。これはつまり、何も指示しなくても自分が何をすればよいかわかっているということ。会社の中長期の目標がわかっていれば、自分の仕事における役割や目的を考えることができ、大小問わず問題が発生してもそれがどう解決されるべきかわかっているということです。

❹「信頼され続ける細やかな対応」
一流のスポーツチームは「勝つだけでなくファンを魅了する」ということが必要です。選手の振る舞いは試合だけではありません。その選手の人間性、姿勢、言葉遣い、外見などいろいろなものがファンへの魅力につながります。もちろん仲間への信頼も同じです。
会社で言うなら、「ただ顧客に頼まれた仕事のクオリティだけで勝負するのではなく、すべてのステークホルダーに対して信頼される仕事をすること」が必要です。メンバーのスキルだけではない、人間性や気配りなど徹底すべきことがたくさんあります。

❺「すべては採用から始まっている」
採用は人事だけの仕事ではありません。採用はチーム作りという意味では監督&コーチの仕事です。人事と彼らが一丸となって取り組むことが重要です。また、各メンバーにも役目があります。一つ目は、求職者は企業実績や文化や風土を見て判断します。日頃から徹底した「実績に対する広報活動」および「カルチャーを意識した採用活動」をしている必要があります。2つ目は、会社の外に目を向けると優れた人材がたくさんいます。彼らはライバルである一方で、仲間になる可能性を秘めた人たちです。いつも周りに目をつ配り一緒に働きたいと思えるメンバーを探すことも重要な役割です。つまり、役員やマネージャーを含めたメンバー全員が「広報」であり、「人事」であるということです。

「一流のプロスポーツチーム」という考え方を通して、この5つの項目が僕らのカルチャーに最適な内容だと考えています。 

イノベーションを作ること

まとめると、勝ち続ける「一流のプロスポーツチーム」は「作戦」と「戦力」をもち、それでいて「チームがうまく機能するムード」があります。
会社で言えば、「売上&利益」を出し続けることであり、「イノベーション」を生み出す「組織」と「風土」が必要であるということです。

そして、一方ですべての仕事にこの考え方が当てはまると思ってはいません。「一流のプロスポーツチーム」でなくても、むしろそうでない方が円滑にいく場合もあります。例えば、医療機関やインフラ企業などはそうではないかと思います。

その根拠は僕らの仕事は「失敗を次の糧にすることができる環境」や「独自の判断で動ける臨機応変な組織」や「突拍子もないアイデアが面白がられる柔軟な風土」などを前提としているからです。

言い換えると、僕らが行っている仕事は「人の命に関わる仕事」ではなく、「イノベーションを作る仕事」ということです。
そういった意味でも、よりいっそう僕らのような会社は「スポーツチーム」のように考えることが適していると思っています。

最後に

改めて「家族」という言葉を捨て「スポーツチーム」という考え方に切り替えます。これは容易なことではないと思っています。
「賛同しないメンバーはどうするの?」「ついていけないメンバーは置き去りにするの?」など、さまざまな意見が出てくると思います。

長い期間、この家族という言葉に対して真剣に向き合ってきた結果です。メンバーを信用し幸せにしたいという気持ちがあるので実行します。

「チーズはどこに消えた?」という有名な本があります。
その中で、「早い時期に小さな変化に気づけば、やがて訪れる大きな変化にうまく適応できる」という言葉があります。小人の「ホー」は勇気を持って新しい迷路に飛び出すことでチーズ(幸せ)を見つけました。

これからもっと時代が変化していく中で、自分たちもその時代を生き抜くために変わり続けなければいけません。コロナ禍という一大事が教えてくれた変化を通して、やがて訪れる大きなピンチ(外部環境変化)に対し、今すぐに僕らは想定し対応していく必要があります。

従来の考え方を捨て、Y’sがもっと強く、イノベーションを生み出せる会社になるために勇気を持って第一歩を踏み出します。

これからの僕らは「一流のスポーツチーム」の精神に切り替えて、前に進んでみようと思います!

次回へ続く。

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